「欠けたこと」を美しさに変える、癒しの時間

気がつけば、金継ぎを習い始めて、早いもので2年ほどが経ちました。 割れてしまったお気に入りの器を、漆(うるし)を使って繋ぎ合わせ、その継ぎ目を金で美しく飾る修復技法です。

金継ぎの教えで私が最も心を打たれたのは、「欠けたことをなかったことにしない」という考え方です。

不注意で割ってしまったこと、傷つけてしまったこと。 それを隠したり、新品のように見せかけたりするのではなく、その傷跡さえも器が歩んできた「物語」として受け入れる。 修復された器は、以前よりもさらに力強く、どこか誇らしげな美しさを纏って生まれ変わります。

ふと、私たちの体も同じではないかと思うことがあります。

家族や大切な人のために、休まず動き続けた足。 責任ある仕事を全うしようと、パンパンに強張った肩。 誰かのために気を配りすぎて、少し削れてしまった心。

日々の生活の中で刻まれる疲れや不調は、決して「ダメなこと」ではありません。むしろ、毎日を一生懸命に生きている、尊い証拠。金継ぎの器に刻まれた傷跡と同じです。

当院のオイルマッサージは、単に優しく撫でるだけのリラクゼーションではありません。 皆様にとっての、いわば「心と体の金継ぎ」のような時間でありたいと願っています。

金継ぎで割れた断面を緻密に整えるように、私たちは筋膜(ファシア)へ繊細にアプローチしていきます。

あえてオイルの量を、肌を傷めない最小限に留めているのも、そのためのこだわりです。 滑りすぎない適度な抵抗感をもたせることで、指先が深部の強張りをしっかりと捉え、癒着した組織を丁寧に紐解いていくことができるからです。

「しっかり、奥まで届く」

その感覚は、バラバラになりそうだった自分自身の感覚を、もう一度ひとつに繋ぎ合わせるような体験に似ています。 手のひらから伝わる体温とともに、呼吸が深まっていくうちに、

「あぁ、私はこんなに頑張っていたんだな」 「私の体、お疲れ様」

そんな風に、自然とご自身の体を労わる気持ちが湧いてくるはずです。

施術を終えてお帰りになる時、ご自身の心と体を、以前よりももっと愛おしく、誇らしく感じていただけますように。

修復された器が、金色の筋を得てさらに輝きを増すように。 皆様の毎日が、その疲れさえも「物語」として輝き出すような、豊かなものになるお手伝いをさせてください。

今日も、心地よい空間を整えて、お待ちしております。

(staff)